在上一篇更新里,我写了很多关于这篇小说给我的一些启发,那就是一个诠释痛楚的过程。在这篇小说里面,出现了很多人和事,最终都是通向让木野去面对痛楚的那个方向。缓慢却有力,平静却不伤人。
有时候痛楚被快速地消融或忘记也不好;有时候痛楚因为恐惧或痛苦而回避起来也不好;无论如何,最好的都是以自己的方式去面向痛楚。抛开恐惧和担忧,直直地面对。
“与木野发生关系的女人,也同样是带着自身的痛楚而来的;
包围店铺的各种蛇,尚且不清楚好恶;
写字楼的人们为什么能快乐呢;
敲门声为何不期而至,且愈加响亮清脆,最后竟让自己平静下来;
为何逼仄的空间反而让自己松弛下来;
最后的最后,木野回忆起发生的种种,然后流泪了。”
这次我把在上面提到的一些场景的相关段落摘抄下来,这些都是让自己印象深刻的。
原文选自《女のいない男たち》ー「木野」
他的店:
客がまったく来ない店で、木野は久しぶりに心ゆくまで音楽を聴き、読みたかった本を読んだ。乾いた地面が雨を受け入れるように、ごく自然に孤独と沈黙と寂寥を受け入れた。
在完全没有客人来的店里,木野能久违地尽情听音乐,读想读的书。就像干渴的地面接受雨水一样,他非常自然地接受孤独和沉默和寂寥。
別れた妻や、彼女と寝ていたかつての同僚に対する怒りや恨みの気持ちはなぜか湧いてこなかった。もちろん最初のうちは強い衝撃を受けたし、うまくものが考えられないような状態がしばらく続いたが、やがて「これもまあ仕方ないことだろう」と思うようになった。結局のところ、そんな目にあうようにできていたのだ。もともと何の達成もなく、何の生産も無い人生だ。誰かを幸福にすることもでけず、むろん自分を幸福にすることもできない。だいたい幸福というのがどういうものなのか、木野にはうまく見定められなくなっていた。痛みとか怒りとか、失望とか諦観とか、そういう感覚も今ひとつ明瞭に知覚できない。かろうじて彼にできるのは、そのように奥行きと重みを失った自分の心が、どこかにふらふらと移ろっていかないように、しっかり繋ぎとめておく場所をこしらえておくくらいだった。「木野」という路地の奥の小さな酒場が、その具体的な場所になった。そしてそれはーーあくまで結果的はこうことだがーー奇妙に居心地の良い空間となった。
对于分别后的妻子,或者与她发生关系的旧同事,为什么没有涌现出愤怒或者憎恨呢。当然最开始时受到了强烈的打击,无法很好地思考那种状态也持续了一段时间,不过不久就想着「这大概也没办法了吧」。最终,我是碰到了那种事。本来就是没什么成就,毫无建树的人生。也无法让任何人幸福,不如说连让自己幸福都不行。大体上幸福是什么,木野也看不清楚。痛楚或者愤怒,失望或者达观,这种感觉至今一个也不能清楚地认识到。他勉勉强强能做的事情是,那失去深度与重心的自己的内心,为了不让它毫无目的地移动,需要准备能扎实地紧系起来的场所。「木野」这个在胡同深处的小酒场,就变成这个具体的场所。于是这——无论如何结果就是这样——奇妙地变成了舒适的空间。
与他发生关系的女人:
人間が抱く感情のうちで、おそらく嫉妬心とプライドくらいたちの悪いものはない。そして木野はなぜかそのどちらからも、再三ひどい目にあわされてきた。おれには何かしら人のそういう暗い部分を刺激するものがあるのかもしれない、と木野はときどき思うことがあった。
在人们所拥有的感情里,恐怕没有像嫉妒心和自满那样坏的东西。木野为什么无论在哪个方面,都再三地遭遇不好的事情。也许我不知怎的就刺激到人们那个黑暗的部分吧,木野时不时会这样想。
その女には何かしら普通ではないものがあることを、木野は最初から感じ取ったいた。何かが小さな声で彼の本能の領域に訴えていた。この女に深入りしてはならないと。おまけにこの背中につけられた煙草の火の痕だ。木野はもともと用心深い男だ。
总觉得那个女人有什么不平常的东西,木野在最开始时就感受到。什么东西小声地向着他本能的领域倾诉。这个女人不能深入接触。加上她的背上被烧伤的烟草的火痕。木野本就是谨慎的男人。
しかしその夜、女は明らかに男にーー現実的には木野にーー抱かれることを強く求めていた。彼女の目は奥行きを欠き、瞳だけが妙に膨らんでいた。後戻りの余地を持たない、決意に満ちた煌きがそこにあった。木野はその勢いに抗することができなかった。彼にはそこまでの力はない。
但是那个夜晚,那个女人很明显地向男人——现实里的木野——强烈地渴求被拥抱。她的眼睛缺乏深度,只有瞳孔奇妙地膨胀。不带向后倒退的余地,而是充满决意地在那里闪耀。木野无法抗拒这股势力。他没有那个程度的力量。
しかしまたそこに視線を戻さないわけにはいかなかった。それほど残酷な真似ができる男の心の動きも、それほどの痛みに耐え続ける女の心の動きも、木野には理解できなかったし、理解したいことも思わなかった。それは木野の住む世界から何光年も離れたところにある、不毛な惑星のあらぶれに光景だった。
但是又不得不把视线转移回去。能做如此残酷事情的男人的心的动向,以及能持续忍耐如此痛楚的女人的心的动向,木野都不能理解。不觉得有想理解的东西。这是在离木野居住的世界几光年以外的地方,荒芜的行星上存在的暴乱光景。
他的妻子:
あなたとうまくやれる女性はどこかにいるはずよ。相手を探すのはそんなに難しくないと思う。私はそういう人になることができなくて、残酷なことをしてしまった。それはとても申し訳ないと思っている。でも私たちの間には、最初からボタンの掛け違いみたいなものがあったのよ。あなたはもっと普通に幸福になれる人だと思う。
应该在哪个地方有能与你很好生活的女性。我觉得找到对方并不是很难。我不能成为那个人,还做了残酷的事情。这真的非常抱歉。但是我们之间,从一开始就像是扣错纽扣一样。我觉得你是能更加普通地幸福的人。
他的店里的蛇:
「蛇というのはそもそも賢い動物なのよ。」と伯母は言った。「古代神話の中では、蛇はよく人を導く役を果たしている。それは世界中どこの神話でも不思議に共通していることなの。ただそれが良い方向なのか、悪い方向なのか、実際に導かれてみるまではわからない。というか多くの場合、それは善きものであると当時に、悪しきものでもあるわけ。」
「蛇原本就是聪明的动物。」伯母说。「在古代的神话里,蛇一直担当引导人们的角色。这是在世界上任何的神话里都不可思议地共通。只是这是好的方向,还是坏的方向,就只能到了实际引导后才能知道。也就是说很多情况下,它是良善的同时,也是恶劣的。」
「両義的」と木野は言った。
「两种含义的」木野说。
「そう、蛇というのはもともと両義的な生き物なのよ。そして中でもいちばん大きくて賢い蛇は、自分が殺されることのないよう、心臓を別のところに隠しておくの。だからもしその蛇を殺そうと思ったら、留守のときに隠れ家に行って、脈打つ心臓を見つけ出し、それを二つに切り裂かなくちゃならないの。もちろん簡単なことじゃないけど。」
「是的,蛇原本就是两种含义的生物。还有在那里面最大且聪明的蛇,为了自己不被杀害,会把心脏隐藏在别的地方。所以如果要想杀这条蛇的话,就趁它不在的时候去隐藏的家,找出跳动着的心脏,然后必须把它切成两半。当然这不是简单的事情。」
他写的明信片:
どうしてそんなことを書いてしまったのか、木野にはそのときの自分の心の動きをうまくたどれない。それはカミタに固く禁じられていたことだった。宛先以外、葉書には何にひとつ書いてはいけません。そのことをわすれないようにしてください、カミタはそう言った。しかし木野はもう自分を抑制することができなくなっていた。どこかで現実と結びいていなくてはならない。そうしないとおれはもうおれでなくなってしまうだろう。どれはどこにもいない男になってしまう。木野の手はほとんど自動的に、葉書の狭い空白を細かく硬い字で埋めていった。そして思いの変わらないうちに、ホテルの近くにある郵便ポストに急いで葉書を投函した。
为什么会写那种东西,木野也无法追寻那个时候的自己心的动向。这是被神田强制禁止的事情。除了收信人的姓名和地址,明信片上不能写任何东西。请不要忘记这件事,神田说过。但是木野已经不能再抑制自己。必须要在某个地方与现实连接。如果不那样做也许我就不是我了吧。变成到哪里都不存在的男人。木野的手真的自动地,在明信片狭窄的空白处写满小而有力的字。然后在想法没有改变之前,赶紧去酒店附近的邮局把明信片寄出去。
敲门声:
強いノックではないが、その音は腕の良い大工が打つ針のように簡潔に硬く、凝縮されていた。そしてノックをしている誰かは、その音が木野の耳にしっかり届いていることを承知していた。その音が木野の深い真夜中の眠りから、慈悲ある束の間の休息から引きずり出し、彼の意識を苛酷なまでに隈なく澄み渡らせていることを。
虽然不是强有力的敲门声,但是那个声音就像技术高超的木匠击针一样被简洁地有力凝缩。还有正在敲门的那个人,知道那个声音能毫无分差地传到木野的耳朵里。那个声音把木野从深沉的三更半夜的熟睡中,慈悲的转瞬休息中强曳出来,直到他的意识被残酷地到处洗净为止。
木野はその訪問が、自分が何より求めてきたことであり、同時に何より恐れてきたものであることをあらためて悟った。そう、両義的であるというのは結局のところ、両極の中間に空洞を抱え込むとこなのだ。
木野对于那个访问,再一次领悟到自己有多么地渴望,同时又有多么的恐惧。是的,两层含义的最后,只能抱紧两极中间的空洞。
おれは傷つくべきときに十分にきずつかなかったんだ、と木野は認めた。本物の痛みを感じるべきときに、おれは肝心の感覚を押し殺してしまった。痛切なものを引き受けたくなかったから、真実と正面から向かい合うことを回避し、その結果こうして中身のない虚ろな心を抱き続けることになった。蛇たちはその場所を手に入れ、冷ややかに脈打つそれらの心臓をそこに隠そうとしている。
在我受伤的时候没有足够地受伤,木野承认。应该感受真正的痛楚的时候,我却扼杀了重要的感觉。因为不想承受痛切心扉,而回避面对真实与正面,结果就是继续抱着没有内涵的空虚的内心。蛇找到那个地方,然后把它们那冷冰冰的脉动着的心脏藏在那里。
木野は布団をかぶって目を閉じ、両手でぴたりと耳を塞ぎ、自分自身の狭い世界に逃げ籠もった。そして自らに言い聞かせた。何も見るまい、何も聞くまい、と。しかしその音を消し去ることはできない。たとて世界の果てまで逃げ、両方の耳を粘土で塞いだところで、生きている限り、意識というものが僅かなりとも残る限り、そのノックの音は彼を追い詰めるだろう。それが叩いているのはビジネス・ホテルではない。それは彼の心の扉を叩いているのだ。人はそんな音から逃げ切ることはできない。
木野用被子盖住自己,闭上双眼,双手紧紧地塞着耳朵,逃跑到自己狭窄的世界里。然后自言自语道。我什么也看不见,什么也听不见。但是那个声音根本无法消失。即使逃到世界的尽头,用黏土把两边的耳朵塞起来,只要活着,只要剩下些许意识,也许这个声音都会逼得他走投无路。它敲打的不是经济酒店。它是在敲打他内心的门。人们无法从那种声音里逃脱。
他的眼泪:
しかし時間はその動きをなかなか公正に定められないようだった。欲望の血なまぐさい重みが、悔恨の錆びた碇が、本来あるべき時間の流れを阻もうとしていた。そこでは時は一直線に飛んでいく矢ではなかった。雨は降り続き、時計の針はしばしば戸惑い、鳥たちはまだ深い眠りに就き、顔のない郵便局員は黙々と絵葉書を仕分けし、妻はかたちの良い乳房を激しく宙に揺らせ、誰かが執拗に窓ガラスを叩き続けていた。彼をほのめかしの深い迷宮に誘い込もうとするかのように、どこまでも規則正しく。こんこん、こんこん、そしてまたこんこん。目を背けず、私をまっすぐ見なさい、誰かが耳元でそう囁いた。これがお前の心の姿なのだから。
但是时间好像不能使那个动作安静下来。欲望的血的腥臊沉重,悔恨的锈迹斑斑的锚,本来是要阻止时间的流动。在那里时间却不是一条直线飞走的箭。雨下个不停,时针再三徘徊,鸟儿们仍然在熟睡,目无表情的邮递员在默默地分拣明信片,妻子那形状姣好的乳房在空中激烈地摇晃,某人在顽固地持续敲着窗玻璃。就像要把他引诱进颇具含义的深层迷宫,无论什么地方都循规蹈矩。叩叩,叩叩,然后又叩叩。不要移开视线,请直直地看着我,某人在耳边嘀咕。因为那是你的心的姿态。
初夏の風を受け、柳の枝は柔らかく揺られ続けていた。木野の内奥にある暗い小さな一室で、誰かの温かい手が彼の手に向けて伸ばされ、重ねられようとしていた。木野は深く目を閉じたまま、その肌の温もりを思い、柔らかな厚みを思った。それは彼が長いあいだ忘れていたものだった。ずいぶん長いあいだ彼から隔てられていたものだっだ。そう、それは傷ついている、それもとても深く。木野は自らに向かってそう言った。そして涙を流した。その暗く静かな部屋の中で。
迎着初夏的风,柳枝仍然柔和地摇动着。在木野内心深处那黑暗的小小的一室里,某人那温暖的手向着他的手伸过来,要重叠起来了。木野继续深沉地闭着眼睛,想着那肌肤的温度,想着那柔和的厚度。那是他长久以来已经忘记的东西。在相当一段时间以前就从他身边隔开了。是的,那是让人受伤的,而且还非常深。木野对着自己说。然后眼泪留下来。在那黑暗又安静的房间里。